英語を教える仕事をしていると、「受験英語は使える英語なのでしょうか?」と尋ねられることがよくあります。
しかし、この質問には「何に使うのか」という前提がないので、なかなか答えるのが難しいのです。
突然ですが、notwithstandingという英単語をご存知でしょうか?「~にもかかわらず」という意味の前置詞で、大学入試では早稲田でも出題されていますし、最近では2023年度の慶応でも出題されています。慶應においてはこの単語を書かせる問題でした。
これに対して、「こんな単語使わないですよー、やっぱり受験英語は使えないですね。」で片付けるのはいささか浅はかではないでしょうか。
確かに私生活ではそうそうお目にかかる単語ではありません。しかし、これは英文の契約書では頻繁に登場し、その分野で仕事をしている人にとっては普通に使う単語なのです。
どうやら、使える英語というとスピーキングやリスニングを思い浮かべる人が多いようです。英語が得意と聞くと、「じゃあ英語がペラペラなんだ。」という人が多いのは、このことを象徴しているでしょう。
しかし、大切なのはスピーキングとリスニングとは限りません。例えば、翻訳家として活躍するならば、リーディング力や、語彙の豊富さ、表現力などのライティング力が、重要になるのです。
更にスピーキングにおいては、語彙力や表現力、内容よりも流暢さに憧れて、それを目指すべきだと考えている人が多いように感じられます。
確かに、お友達とスモールトークを楽しむことに使うなら、「ペラペラ」に近づくことに力を入れてもいいでしょう。そのためには、基本的な語彙やスラングなどをインプットして、それをアウトプットする機会を増やすことが効果的だと思います。
あるいはアナウンサーになりたいというのなら流暢さは欠かすことができません。
一方で、ビジネスで英語を使うのなら、流暢で「ペラペラ」と話すよりも、それ相応の語彙、表現力などを身につける方が重要です。
いくら流暢に話をしても、話す内容が「ペラペラ」では仕事になりません。
単に流暢に話すことが大きなアドバンテージにはならないことは、日本語に置き換えれば理解できると思います。
更には、優秀な人というのは、英語ができるからだけではなく他のスキルも長けているから優秀なのです。単にスキルがあるだけでなく、人の話を聞く力や、人を気遣う力、そして人間性も重要です。
リーディングにおいても、ペーパーバックの小説を楽しむのと学術論文を読むのとでは、必要とされるものは異なりますし、ライティングとリスニングに関しても同様のことが言えます。
つまり、英語を何に使うかによって必要な技能も異なるということです。
そのように考えると、大学入試の英語はあらゆる技能の土台になっているという点において、捨てたものではないのではないかと思います。特に最近の大学入試問題の多くは、昔のものよりもよく練られています。
いずれにせよ、大学受験をする上で英語を勉強する必要があるのなら、受験英語が「使える」かどうかを考えて足踏みしていても仕方ありません。「受験英語を将来何かに役立ててやるぞ!」という心持ちで勉強する方がいいのではないでしょうか。